古墳記念日危険地帯

昔の話。

自分には見上げていた世界があった。

見上げていた世界で、憧れていた人が居た。

その世界は多種多様の人が暮らし、音楽を奏で、歌を歌う。そんな姿は世界は光の国とそこに住まう住人に見えて、とても眩しく僕の目に映った。

世界を光が照らしていたのか、人々が輝いていたのかはわからないが、きっと後者。少なくとも僕はそう感じた。

むしろ、煌々と輝き過ぎていたのかもしれない。少し目が痛い。やめろ、君たちは輝き過ぎだ。

さて、そんな光の国の傍ら、羨ましそうに影の中から見上げていたのが、僕だ。

その中でもひとり、一際光り輝く存在に目を奪われていたのが僕だ。

その世界には光と影しかなく、光の中を歩けるのはほんの一部の選ばれた人間だけ。残った人々は影で静かに暮らし、光を支える。僕もそのひとり。

別に光の中を歩きたかったわけではない。影の中から光の世界を見上げているだけでよかった。明確な意思はない。

ただ漠然と光の世界に憧れを抱いていただけ。

あの頃の僕は自分だけの物語を持っていなかった。

光の国で暮らす為には自分だけの世界、自分だけの物語を紡ぐ必要があるが、僕は物語を紡ぐための経験にすら乏しく、紡ごうとさえしていなかった。

影から見上げる世界は楽しそうで、見てるだけでも楽しい。

でも、一度だけ辛くなったことがある。

一度、見上げていた光の世界の影から逃げ出したことがある。

光の世界を見上げながら突然訪れる虚無、世界に取り残されたのは自分だけという錯覚。

いたたまれない気持ちで逃げ出して必死に走った。

どれくらい走ったのかはわからないが、辿り着いたその場所は思ったよりも近くにあった。光しかない世界。

光があれば影が出来るのは世界の常だけれど、逃げ出した新しい世界はその理に反し、影が存在しない光だけの世界。自分だけの物語を持つ必要がなく、光を求める必要もない。

そこにいるだけで光が差し込んでくる。

そこにいるだけで誰もが自ずと輝ける

恐らくとても居心地がいいのだろう。光が差し込む世界は、こうも温かいのか、と。

そこには僕のように逃げ出してきた人はごく少数派。生まれた時からここに住んでいたらしい。

生まれ落ちた場所が理想郷、はじめからその世界に住んでいる人たちはとてもラッキーだ。

日の目を浴びないなんてことはない。野心も無ければ探究心も無い、学びの必要が無くとも受け入れてくれる、輝ける土壌がそこにはある。

居心地の良い環境に長く居ることで、見えてくるものもあった。

その世界は常に変化し続けることで、その環境を維持していた。

光の当たらない、自らで輝くことの出来ない人々でも輝けるように世界を作り変えることなど、造作もないことだったらしい。

そしてもう一つ、彼らは日の目を浴びない影の世界を知らないし、知っていても光が当たる部分だけ。まるでお伽噺のように、すぐ近くの世界に存在するとは夢にも思ってもいない。

誰もが光り輝けることは、いいことばかりではなかった。

積み上げてきたものが、紡いできたものが無い、中身が無いにも関わらず生暖かい世界で光を放つ姿を嫌う人が出て来た。

やがて、住人達は小さな諍いを起こすようになる。すべての住人に光が当たること見える本当に下らない諍い。

「そういえば、光と影が存在する世界では争いは無かったんだっけ…」

「彼らは自分の信念のもとに輝いてたんだっけ…」

突然、元居た場所が恋しくなった。

小さな諍いが起きる生暖かい世界が嫌になった。

何もせずに温かな場所にいるよりも、影の中からでもギラギラとしたその異質な輝きを見ている方が僕にはお似合いで、そんな生き方が一番楽だと思っていた。

僕が戻った時、世界はすっかり様変わりしていて、僕は光の中を歩いていた。

確かに暗闇から、影から見上げていた世界にいる感触がある。

僕が別の世界に逃げていた間、この世界も同じようになってしまったのだろうか。

変わったのは 僕自身

気付くまで時間がかかってしまったが、どうやら変わっていたのは僕だけで、この世界はただ、変わった僕を、光り輝くことの出来た僕を、変わらず受け入れてくれただけだった。

僕にも自分だけの物語を紡ぐことが出来ていたと気付かされた。どんな不器用な今でも 僕だけの筆跡

まだ弱々しい光だけど、僕だけの色できっと誰かを照らしている。

それに気付かせてくれたのは、光の国の住人の一人。僕が昔に憧れたその人だ。

僕のペースを待ってくれて ありがとう。

変わらないでいてくれて ありがとう。

久しぶりに見た彼の姿は、あの頃の輝きをすっかり失ってしまって、影の中にいた。

その瞳は、眩しさに憧れていた当時の僕のような希望の光はなく、鈍い鉛色。

僕には理由がわからない。

それでも僕はこの場所で鮮烈に光を放ち、影から見上げる人達をこの場所まで導いていきたい。

あの日憧れた姿にはまだ遠いけれど、今度は僕が導くことが出来るなら、これ以上嬉しいものはない。

ときーポエムおわり(続きません)